システム導入が必要ない会社

そもそも、システムの導入は、人がこれまででやっていたことを人にかわって機械がやることで、便利になるということです。18世紀にイギリスで産業革命が起こったときに、人々が自分の仕事が奪われることを恐れて、機械打ちこわしをしたということがありました。将来の技術革新によっては今の仕事を失う人々も出てくるでしょう。しかし、今やコンピューターシステムは企業経営に不可欠なため、コンピュータシステムの破壊行為を社員が行うという、産業革命時のイギリスのようなことはないと思います。


産業革命の時も、今も、こうした機械やシステムは、人々が手で行っている仕事を機械やシステムが行うと言うことです。特に、手間がかかるような「時間がかかる」ような仕事を機械やシステムがやることで、私たちは随分と便利になります。特に、機械化、自動化するのであれば、その期待される効果が絶大であるのは取り扱い数量が多い場合です。

例えば、1日あたりの顧客数が多いとか、販売する商品やサービスの種類が多い、あるいは、数多くの中から何かを検索する場合、さらに、大量のものを規則順に並び替えれなければならない、と言った場合です。


しかし、私が経験したいくつかの職場では、そもそも全てがマニュアルで行われており、何ら支障なく運営されてるのに、システムを導入することが目的になり、プロジェクトがすんなり進まなかったということがありました。

その背景としては、取り扱い数量や物の動きがあまりないからです。つまり、商品単価が高く、そう多くの商品が1日に販売されないとか、商品の種類が少なく、売上や在庫を商品別に分類して報告する必要がないようなビジネスです。

そういった場合、 こうしたICT技術を導入しても、 投資金額や月々のランニング費用の割には、さしてその効果はありません。むしろ、手でやっても作業時間は変わらないのです。しかし、それでも、そうしたシステムを導入した場合は、その仕事の作業時間削減されますが、逆に、その仕事を担当していた人は、「手あまり時間」が増える可能性があります。

これまで、ある店舗では、 お客様が少ない時間や、接客をしていない時間帯に、顧客台帳の整理や、売上伝票の起票などをおこなっていました。しかし、それらに関わる時間がシステム導入によって削減されてしまうと、急に他にやることがなくなってしまいます。賢い会社は、こうしたマニュアル作業を逆に利用して、システムをわざと入れないといった会社もあるようです。

つまり、システム導入をすると、投資金額や、月々のランニングコストが増加するのみならず、社員の教育やそのコスト(時間)もかかるからです。また、ビジネス環境が、変化している途上では、一度、システム入れてもまたカスタマイズなどしなければいけないため、逆にコストがかかります。

もう一つの忘れてはならない要因としては、社員に対して、システムの使い方の学習を要求したり、ITリテラシーを求めなければならない、と言う場合です。そうした場合、トレーニングの費用(時間)もかかります。 また、どちらかと言うと、体を動かすことが大好きで、あまりキーボードを叩いたりすることが苦手な社員が多い現場では、こうしたシステム導入は相当な負担になります。

過去に、オフィスでエクセルを使って売上レポートを作っていたので、非常に時間と労力がかかるから、改善してもらいたいという要望がありました。そこで、現状のレポートを分析した上で、BIツールを導入しました。また同時に、レポートの項目(ディメンション)を自由に設定できるようなウェブ式の簡単なレポートも開発しました。

ICT部門としては、オフィスメンバーのエクセル作業がどんどん減ってくるのではないか、と期待をしていましたが、実は、以前と全く変わらない現象が起きたのです。つまり、 システム導入の恩恵に預かるべきスタッフたちは、また、新しい形式のエクセルのレポートを作り始めたのです。


導入の際は、オフィススタッフの単調なエクセル作業を減らし、もっと創造的な頭を使う仕事の時間を増やしていこう、といったことでシステム導入を始めました。しかし、 せっかく新しい仕組みを導入したのに、エクセルでの作業は減る事はありませんでした。逆に、あまり重要性のない、しかも、手間のかかる新たなエクセルレポートを作り出すという方向に進んで しまったのです。

私の推察では、これまで長年にわたり創造的で考える仕事をして来なかったスタッフが、目の前のエクセルレポート作成の仕事が急になくなり、「はい、今日から考えてください」、と言われても、どうやっていいかわからないし、 時間を持て余すので、 結局、また、新しいエクセルのレポートを作り始めたのだと思います。


皆さんはどう思いますか。DX推進として政府が主導で進めていますが、 デジタル化したからすべてがよくなるとは限らない場合もあるということです。私は、決して、DX推進やデジタル化に反対している立場ではありません。むしろ、私は、これまで業務改善のプロとして、システム導入プロジェクト屋さんとして多くの仕事をしてきたのです。

最も大きな問題は、どういった目的で、どういった結果を期待してデジタル化や、システム導入をするか、と言うことを、経営陣がしっかりと方向性を示し、具体的に定量的に打ち出すと言うことです。

具体的とは、現状を定量的に時間分析をして、たとえば、「どの部門のある仕事を年間250時間減らし、二次効果として、全社で1200時間減らすことができる、だから、何人の業務は変更になるから、彼らに 新しい担当業務へのトレーニングも計画する」といった内容で具体的な道筋を数字とともに示すことです。それは単純にシステムを入れるというだけではなく、組織の変更や部門の担当変更、人事異動といったことも絡んでくることで、 単純に、ICT部門だけの責任ではないということなのです。

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