かつて、会社の基幹システムを入れ替えるといった、大きなプロジェクトをリーダーとして担当しました。長年、同じシステムを使っていたので、このプロジェクトが立ち上がる以前から、多くのユーザーたちから不平不満がシステム部門に寄せらていました。
要件定義に入り、システムの構成や機能について、あれこれと決めていく段階になると、ここぞとばかりに、営業の部長さんや役員さん達が、かなり大きな声で、「あれもやってほしい、これもやってほしい」と私たちに話をしてきます。そうしたことを幹部クラスから言われたシステム部門の中堅や若手のスタッフたちは、要望をそのままリストに入れていきます。
私は、その要望リストを見て「これらはどうして必要なのか理由を提示できますか」とシステム部門のメンバーに訪ねますが、彼らはほとんど答えることができません。なぜならば、営業の部長さん、役員さんといった自分達より偉い方々から勢いよく言われたので、黙って受け入れざるをえませんでした。
私は、プロジェクトの責任者として、部長さんらを個別に訪ねて、それらの要望内容について、なぜそれが必要なのかを聞いてまわりました。本当に必要であれば機能リストに加え、不要であれば、部長さんに説得をして、見送ってもらうことにしました。
大きな声を出す役職者の方々は、私たちに対して要望をズバズバ言ってきますが、実際に現場でシステムを使っている、口数も少ない、おとなしいユーザーたちは、疑問を持っていても、言いたくても言えなくて、我慢しているのかもしれません
また、実際にシステムを使っている立場として、仮に、何か良い改善アイディアを持っていたとしても、それを話す機会もなく、心の中にしまっている可能性があります。そこで、全ユーザーに対して「今まで困っていたことや、新しいシステムで実現してもらいたいことを無記名で遠慮なく書いてください」といった要望アンケート調査を行いました。
2つの想定外の結果が得られました。1つ目は、予想していなかった領域において、問題点があったということです。私たちは、新システムの導入に際しては、商品マスターや、在庫データの更新といったところばかりにフォーカスをしていました
しかし、それだけではなく、得意先マスターや、仕入れ先マスターの更新にも問題があるということが判明したのです。我々が認知していない領域での問題点を見つけることができた後は、改めてユーザーにヒアリングして、新システムにその機能を追加することができました。
そして、2つ目は、それまで大きな声で、私たちに色々と要望を言ってきていたお偉いさん達が静かになったことです。アンケート結果を経営会議で発表し、要望が多い順に優先順をつけたものを、会議参加者へ共有しました。
お偉いさんたちが要望していた内容は、他のユーザーからのリクエストも非常に少なく、全体からすると優先順位が低いことがわかったのです。逆に、これまで話題にも上がらなかったのに、改善リクエストが多く、優先順位が上位となっているものもありました。そうしたアンケート結果を会議で説明することによって、これまで、大きな声で的外れな要望をあげていた方々の声は、段々と小さくなっていきました。
声の大きな権力のある人の意見だけに、盲目的に従ってシステムを改善してしまうと、普段、黙々と仕事をしている静かなユーザーたちの意見が反映されません。そうしたことを避けるためには、アンケートをとって、客観的に、公平にユーザーがどう思っているを聞いて、その結果をステークホルダーや経営陣と共有することです。それによって、会社の戦略として、重要なものを客観的に経営陣で討議することができます。
このアンケートのおかげで、大きな声の人たちに振り回されそうだったプロジェクトは、きちんと軌道修正をすることができました。また、その後、ユーザーへのアンケートは、「IT満足度調査」として定期的に行い、その結果は、IT部門の予算や中期計画を策定する機会にも使うこともできました。
現場の声は、事務所にいるスタッフの声よりも、説得力があり、生々しい表現も多いものです。こうした声は、経営陣にとっても、とても興味がある内容です。まずは、定期的に、ユーザーの声を聞く機会を設けることが大切です。ぜひ、こうしたアンケートを活用してみてください。