以前、「プロジェクトは何色ですか?」とある方に尋ねられたことがあります。この禅問答のような質問の意図は不明ですが、私の返答は「色なんかなくて、あるのはメンバーの情熱と信頼だけだ」と言うものでした。ICTのプロジェクトに於いては、物理的に目に見えるものは無く、情報のやり取りのみで物事が進んでいきます。その進捗状況は、たいてい、口頭での会議や、文字でのメールでだけでプロジェクトメンバーやステークホルダーに共有されることになります。
こうした情報共有について、一つ苦い思いをしたことがあります。プロジェクトメンバーの中に、英語も堪能な優秀な社員がいました。彼は、イタリア本社といつも積極的にコミュニケーションを取ってくれていたのですが、1対1でのやり取りで終始することが多く、他のメンバーにその情報が共有されていない、ということがしばしばありました。
ある時、プロジェクトの他のメンバーが、自らのタスクを完了した後に、それが不要であったと判明したことがありました。イタリア本社とやり取りをしている彼に確認したところ、そのタスクが不要になったいう情報を他のプロジェクトメンバーと共有するのを忘れていたのです。
こうなると、プロジェクト内の人間関係がギクシャクしてきます。「せっかく、頑張ってタスクを終わらせたのに、不要になったのなら、その時点で、どうして知らせてくれなかったのか」と、他のメンバーは気分を悪くします。彼は、「つい忘れていました、すみません」と謝ります。
しかし、その後は、彼の仕事に対して、他のメンバーからは疑心暗鬼が生じるようになってしまいました。こうした小さな亀裂から、メンバーの間の信頼にヒビが入り、各担当者たちの情熱も冷めていくことになります。プロジェクトを運営するうえで一番の大きな問題の原因は、情報がメンバー間で共有されていないことである場合がほとんど、というか、全部でした。
私は、この件の反省を踏まえることにしました。大規模なプロジェクトの場合、その中に、複数の小さなグループが発生します。その小グループごとにグループアドレスを作り、社内メンバーだけでなく、外部のベンダーさんやエンジニアも含めることにしました。さらに、プロジェクトマネージャーと事務局は、必ず、全てのグループにも入れておくことにしました。誰にとってもヌケモレなく必要な情報を共有するためです。
例えば、ネットワーク構築グループ、倉庫連携構築グループ、マスターデータ構築グループ、そして、プロジェクト全員を含むグループアドレスといった具合いです。プロジェクトに関する全てのメールは、必ず、このグループアドレスに送るという約束にしておきます。こうすることで、プロジェクトマネージャーとしては、全体の動きがよくわかるようになりました。メールの数は増えますが、情報の共有がうまくできなくて、メンバー間の信頼関係を失うよりも遙かにマシです。
ICTのプロジェクトの全体像は、何も形もないし、どう進捗しているかがわからないものです。また、責任あるポジションの役員たちからすると、外から見えない分、やはり進捗がとても心配になります。メールのグループアドレスを上手く活用して、必要なタイミングで必要な人々に情報が常に共有され、見える化することで、役員から担当者まで、メンバーの信頼と情熱も維持することができるのです。