何とか乗り切るICTプロジェクトマネージャー(第2回)

プロジェクトをスタートするにあたって、問題点や課題は、まずは社内で共有して、ある程度どのように改善していくかという方向性をプロジェクトスタート前にステークホルダーと決めておきます。

ここが整理されていないと、話がぐるぐると回ってなかなか先に進みません。ここでは、問題点や課題が整理されていないと、どういったことでその後に混乱するのか、あるいは、問題や課題自体がなかなか認識されないことの原因についてお話しします。

■最初にプロジェクトの目的を経営陣と共有する

プロジェクト企画の上で、その大前提となるプロジェクトの目的が決まっていないと途中でプロジェクトがぶれてしまいます。プロジェクトを始めると、想定しなかったいろいろな問題が出てきます。それらの作業ボリュームが増えてしまい、結果として計画が遅れてしまい、当初の目的が期限通りに達成されないことになります。

また、プロジェクトの目的は、経営陣はもとより、現場のユーザーレベルの業務フローまでを考慮された内容でないと、結果として、ユーザは使いにくいシステムを使わざるを得ないということになってしまいます。

まずは、プロジェクト開始前の段階で問題点や課題を整理した上で目的を経営会議で決めることです。また、コンプライアンスやセキュリティー上の問題がある場合は、そちらが最優先になります。大枠で良いので目的をまずは経営陣や組織メンバーと共有することです。

特に、ユーザビリティーやシステムの拡張への柔軟性の問題については、年数が経つにつれてビジネスも変化しますので、どの会社でも抱える問題になります。一方、技術は進化し、さまざまな新しいツールが出てきています。新しいツールは、たいてい、同じ機能であれば古いシステムより安く使いやすいでしょう。

したがって、現在ある古いシステムをカスタマイズする費用で、システム一式が導入できたりすることもあります。こうしたところも経営陣と共有し、どの方向性を取るのかを決めておくことです。

新しいシステムを入れ替えると、組織にも相当な負担がかかります。ですから、全社的にシステム刷新するのであれば、それは経営陣で決めて事前に社員に周知しておくことです。

また、システム導入プロジェクトでは、ユーザーの協力が必須です。しかし、システムを入れ替えるには、業務フローの変更が必要であったり、新しいシステムについて覚えることもあり、現状維持をしたいという社内ユーザーの抵抗勢力が出てきます。そのためにも、大元の大きな方針については、会社でまずは決めておき、プロジェクトの目的を全社で共有することです。

■ 課題がなかなか認識されない理由は

これまでの経験からの意見ですが、情報システム関連の課題がなかなか認識されないにはいくつかの理由があると思います。会社での環境や事業の特性、情報システム部門の会社での位置付けなどがあります。

①同じ業務フローでいいだろう
今の業務のやり方にすっかり慣れてしまい、長年同じ業務フローで何とか回っているので、わざわざ変えなくてもそれで良いではないか、という考えです。

また、経営陣にしても、とりあえず回ってるからこれでいいだろう、 システムにはあまりお金は使いたくない、という考えもあります。特に、トランザクション数が少ないビジネスモデル、すなわち、高額商品を少量販売するビジネスモデルでは、 手作業でも何とか追いつけるのでシステム化が遅れがちになります。

②情報システム部門のリソース不足
現場に不満はたくさんあっても、情報システム部門の人員が極端に少なく、問題点を把握しきれない場合があります。

つまり、既存システムのトラブルや運用の対応で手がいっぱいで、新たな業務改善はもとより、新しい情報システムのサーチをする余裕もないのです。また、ユーザの声を聞く機会であるユーザーアンケートの実施や、ユーザーのヒアリングの機会も非常の少なく、ユーザーとのコミニケーションがうまくいってない場合も想定されます。これは、情報システム部門が総務部や経理部門の一部として機能しているような小さな会社で起こりがちで、会社としては、ICTを使って何かをすることに対しての優先順位が低い場合です。業種や業態にもよりますが、今や、情報システムを使わない業務は非常に少ないので今一度見直すべきです。

③経営会議への報告
実は、これがいちばん現実的にある話では無いかと思ってます。執行役員会や取締役会等の上位会議で、情報システムの問題点や新たな投資についての報告が定期的にされていないと言う場合です。

情報システム投資にはお金がかかりますが、その効果が物理的に目にみえるものではありません。したがって、プロジェクトの進捗状況や、予算の進捗、あるいはユーザからのアンケート結果による要望事項や最近起きたトラブルの報告とその対策を議題として上位会議で定期的に報告をすることです。

また、競合他社で最近導入された新システムや、デジタルマーケティングツールの紹介は、大きなインパクトがあります。こうした情報共有は、毎月の必要はありませんが、少なくとも四半期に1度ぐらいは報告をする機会を持つことです。経営陣に対して、ITリテラシーを高めていく上での貴重な機会となります。これらの積み重ねが社員のITリテラシーを高めていきます。

④オーナー企業のトップダウン
日本の中小企業での話です。トップダウンが非常に強いオーナー企業では、トップがすべてを事細かに決めてしまい、社員は余計なことをして怒られるくらいなら何もしないほうがいいと考えています。いつも下を向いて自分で問題点を探したり改善しようと思いません。当然、情報システムの問題点や課題があっても表に出ることはありません。

これらは、会社設立の背景や社内の政治的な理由があるのでしょうが、問題はあってもそれを声に出せない環境です。こうした状況は、情報システムの改善や改革にとって、もっとも厄介です。粘り強くトップと話をしていくか、トラブルが起きた時に、丁寧にその原因と影響度を説明していくことです。あるいは、社員にやる気を起こさせるようなオーナー以外の強いリーダーが組織に必要になります。

逆に、トップが独断でソリューションを決め、強引にそれを進めてしまう場合もあります。 例えば、オムニチャンネルと言う言葉が流行すると、自社も何とかそれを導入しようとします。

さして必要ないかもしれないのに、無理矢理導入しようとするのですから、 現場の社員のモチベーションにも関わりますし、その成果も十分に効果があるかどうかは分かりません。これらは、経営方針に関わることですが、仮にトップダウンで導入するにしても、プロジェクトスタートの前に現状をよく分析し報告してから進めることです。

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