何とか乗り切るICTプロジェクトマネージャー(第8回)

第8回では、実際のプロジェクト運営でのヒントや上手くいくコツをお話しします。

いろいろな部署の人間が 集まって、1つのゴールに向かってプロジェクトが運営されます。それぞれの役割もあり、上手にコミュニケーションをしながら、リーダーはメンバーのモチベーションを上げながら進めなければいけません。

◾️プロジェクトのリーダーはどの役職が良い
プロジェクトにはリーダーが必ずいます。リーダーは、プロジェクトオーナーからプロジェクトを発注され、プロジェクトを運営していく責任があります。プロジェクトオーナーとは、いわゆるステークホルダーの代表のようなもので、だいたいの場合、役員や社長がプロジェクトオーナーになります。

プロジェクトリーダーとなるべき人は、もちろん、経営陣の信頼が厚い人が良いのですが、プロジェクトメンバーの構成にもよります。例えば、複数の部門にわたる大掛かりな、全社的なプロジェクトにおいて、同じ役職階層の何人かがプロジェクトメンバーとして構成されると、メンバー間の意見の調整が非常に難しくなることがあります。同じ役職なので、意見がぶつかった場合、それを仲裁して、決定できる人がいないからです。


プロジェクトの大まかな方向性は、ステアリングコミッティや、それに類する会議で決められますが、日常的に発生する細々とした問題に対しては、その都度の判断や調整が必要となってきます。私は、ある程度の決裁権限の持った人をプロジェクトのリーダーとすることを勧めています。また、経営陣のキーパーソンとも太いパイプがあり、何か困ったら、すぐに相談できて、プロジェクトの裏側で利害関係者と調整し物事を決定できれば理想的です。

これまでの経験では、経営会議で、社長からマネージャー数名に「君たちでプロジェクトやってちょうだい、リーダーは君ね」と丸投げするという苦々しいパターンもありました。それぞれのマネージャーは、自部門の利益を最優先にしてしまいがちです。リーダーに指名されたマネージャーは、同じ階層であるメンバーの利害を調整する必要がありますが、それをまとめる事は非常に困難です。

できれば、プロジェクトリーダーは、1つ上の役職階層の人が担ったほうが良いでしょう。あるいは、どうしてもそういった人がいない場合は、プロジェクト事務局に力を持たせることです。事務局に、経営陣と深いパイプのある部門の人を配置して、取り次ぎ役をお願いします。プロジェクトメンバー間でなかなか物事が決まらずにもめた場合、事務局が社長や役員と相談して、その意向をプロジェクトに持ち帰ってもらうのです。意見や利害が衝突したとしても、メンバーは、最終的には会社の方向性には従うものです。

 

 

◾️プロジェクトには複数のグループアドレスを
以前、「プロジェクトは何色ですか?」とある方に尋ねられたことがあります。この禅問答のような質問の意図は「色なんかなくて、あるのはメンバーの情熱と信頼だけだ」と言うものでした。

ICTのプロジェクトでは、物理的に目に見えるものはほとんどなく、情報のやり取りのみで物事が進んでいきます。その進捗状況は、たいてい、口頭での会議や、文字でのメールでだけでプロジェクトメンバーやステークホルダーに共有されることになります。

こうした情報共有について、一つ苦い思いをしたことがあります。プロジェクトメンバーの中に、英語も堪能な優秀な社員がいました。彼は、イタリア本社といつも積極的にコミュニケーションを取ってくれていたのですが、1対1でのやり取りで終始することが多く、他のメンバーにその情報が共有されていないということがしばしばありました。

ある時、プロジェクトの他のメンバーが、自らのタスクを完了した後に、それが不要であったと判明したことがありました。
イタリア本社とやり取りをしている彼に確認したところ、そのタスクが不要になったいう情報を他のプロジェクトメンバーと共有するのを忘れていたのです。

こうなると、プロジェクト内の人間関係がギクシャクしてきます。「せっかく、頑張ってタスクを終わらせたのに、不要になったのなら、その時点で、どうして知らせてくれなかったのか」と他のメンバーは気分を悪くします。彼は「つい忘れていました、すみません」と謝ります。

しかし、その後は、彼の仕事に対して、他のメンバーからは疑心暗鬼が生じるようになってしまいました。こうした小さな亀裂から、メンバーの間の信頼にヒビが入り、各担当者たちの情熱も冷めていくことになります。プロジェクトを運営するうえで一番の大きな問題の原因は、情報がメンバー間で共有されていないことである場合がほとんど、というか、全てでした。

私は、この件の反省を踏まえることにしました。大規模なプロジェクトの場合、その中に、複数の小さなグループが発生します。
その小グループごとにグループアドレスを作り、社内メンバーだけでなく、外部のベンダーさんやエンジニアも含めることにしました。さらに、プロジェクトマネージャーと事務局は、必ず、全てのグループにも入れておくことにしました。誰にとってもヌケモレなく必要な情報を共有するためです。

例えば、ネットワーク構築グループ、倉庫連携構築グループ、マスターデータ構築グループ、そして、プロジェクト全員を含むグループアドレスといった具合いです。プロジェクトに関する全てのメールは、必ず、このグループアドレスに送るという約束にしておきます。こうすることで、プロジェクトマネージャーとしては、全体の動きがよくわかるようになりますメールの数は増えますが、情報の共有がうまくできなくて、メンバー間の信頼関係を失うよりも遙かにマシです。

ICTのプロジェクトの全体像は、何も形がないし、どう進捗しているかが物理的に目で見てわからないものです。また、責任あるポジションの役員たちからすると、外から見えない分、やはり進捗がとても心配になります。メールのグループアドレスを上手く活用して、必要なタイミングで必要な人々に情報が常に共有され、見える化することです。そうすることで、役員から担当者まで、メンバーの信頼と情熱も維持することができるのです。


◾️プロジェクトは仲良しグループで

塾講師で、コンサルタントとしても活躍されている木下晴弘先生のセミナーへ参加させていただいた時に聞いた話です。学校のクラスで、仲の良い子たちのグループと、あまり仲良しではない子たちのグループに、同じグループワークの作業をさせると、必ず、仲の良いグループは、出来栄えも良く、時間内に作業もきちんと終えるらしいのです。これは、仲の良い子たちのグループは、グループ内のコミュニケーションもよく、お互いに助け合って、作業を進めるからだそうです。


プロジェクトでも同じではないでしょうか。プロジェクトリーダーは、 チーム内の雰囲気を、常によく保ち、良いムードにしておくことです。そのためには、会議の進行や仕事以外で、1つの作業が終わったときに、食事会や、飲み会を開催するなど、そうした工夫が必要です。

会議では、進捗状況や、問題点、 今後のスケジュールなどについての確認をしたり、その他の情報を出し合って共有をします。プロジェクトリーダーは、必ず、会議の中で、 雰囲気を柔らかくするような、笑いを誘うような発言をして、メンバーをリラックスさせることが重要です。

下手なジョークでもいいのです。また、チョコレートやキャンディー、お菓子や飲み物を出すのも1つの方法です。 話題が仕事以外の方向へ向くことによって、緊張感がほぐれ、リラックスできて話をしやすい雰囲気になります。

メンバーはリーダーのこうした努力を理解します。それにより、いっそう、メンバー間の絆が強まるのです。また、こうした積み重ねによって、メンバー間のコミニケーションが活発になることで、小さな事でも、気軽に話をすることができるようになります。また、仕事以外の食事会や、ランチ会、そういったものはお互いを知る良いチャンスともなります。

欧米と比較した場合、日本人チームは、メンバー間の仕事の境界線が必ずしも明確でないため、他人の仕事であっても、意欲的にサポートをするところに最大の強みがあります。誰かが困っていると、必ず誰かが助けてくれます。そうした助け合いの気持ちを、より一層強くするために、こうした雰囲気作りや努力は不可欠です。

そうすることで、プロジェクトは必ず成功します。これまで、プロジェクトチームの雰囲気がとても良い場合、私は、プロジェクトを失敗した記憶がありません。必ず成功して、みんなで達成感を味わうことができました。それぞれが積極的に課題に取り組み、情報を共有しあって、プロジェクトは、計画通りに進むのです。

 

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