何とか乗り切るICTプロジェクトマネージャー(第7回)

アジャイル開発についてご紹介します。小売店舗を展開する中で、小さな仕組みをシステム化していき、その後、それらを統合してCRMとして活かせました。

1、アジャイルでのスクラッチ開発

システム責任者として、アジャイルでのスクラッチ開発は、パッケージ導入よりも多く経験してきました。結果的には、安く開発が終わります。しかし、継続的に細かな改善や変更要求があると、どこかでまとめて一度に行わないと、エンジニアの契約が長くなりかえって高くついてしまうので注意です。以下は開発事例です。いずれも「時間がかかる」という問題を改善するために行われたものです。小さな改善開発をいくつか始め、そのデータは、同じサーバー内で集積されることで、さらに他の開発に活用されていくのです。

■セールスレポート
それまでExcelで毎日作成し、配信していたものをBIツールによってPDFで配信できるようにしました。その後、色々な切り口で見たい(スタッフ別、店舗別、品番別、ブランド別、昨対、日別など等)という要望があり、スクラッチ開発することにしました。最初に、たたき台となるプロトタイプを開発し、デモ会をして意見を吸い上げながら仕上げていきました。ユーザが自分の見たい切り口ですぐに見れるようになり好評でした。

■経費実績予実レポート
DWH(データウエアハウス)にあるデータを活用して、経費の予算実績レポートをタイムリーで閲覧できる仕組みをつくりました。経理部が月次決算が締まった後に、毎月エクセルで作成配信していたものがデイリーで閲覧できるようになりました。
SAPBWから経理データをデイリーバッチでDWHサーバーに吐き出し、また、予算のデータについては別のシステム(Bizforecast)から連携して、JAVAで開発し2ヶ月でリリースしました。パソコンのChromeでログインすることでシステムに入ることができます。部門を選択し、科目をクリックすることで明細リストがタイムリーに出てきて確認できるようになりました。

■商品台帳、写真台帳
それまでカラーコピーしていた商品の写真台帳(売消台帳)をデジタル化することで、コピー代や140店舗へ店舗に配布する負担を軽減することができるようになりました。品番を検索することで、iPadで商品写真データを見ることができ、基幹システムと連携しているので、倉庫在庫数、他店在庫数もすぐにわかります。また、在庫がないときは、ボタンひとつで店間移動リクエストを出す仕組みも追加しました。商品写真は、その後、オンラインストアの写真と連携させ、オンラインストアと同じ写真ですので、実店舗にいながらお客様をオンラインストアへ誘導することができるのです。

■CRMキューブ
CRMデータは、顧客の購買履歴情報と顧客プロファイル、そして顧客へのアプローチや顧客行動履歴になります。これらを担当者はBIツールで毎月CRMレポートを担当者が作成していました。それを担当者とともに開発しレポートを自動化しました。まずは、顧客プロファイルを個人情報とならないようにマスキングして販売履歴とともにDWHに集め、外部エンジニアにスクラッチで開発してもらいました。ユーザはログインして、自分の切り口でレポート見ることにより、会員への販売状況や来店状況がデイリーで見ることができるようになりました。

■顧客行動台帳システム
顧客の来店、特定の顧客への店舗スタッフのアプローチについては、販売がなければ記録に残りません。しかし、店舗スタッフは自分のノートにメモをしていました。それらをシステム化し、個人がシステムにそれぞれの顧客に対する対応を入力することで、そのスタッフが異動したときに引き継いだ新しい顧客担当者が過去のアプローチ履歴がわかるようになります。こうしたお客様へのアクションについて記録することで、最終的にはトレジャーデータ(CDP)を導入した際に、すべての顧客に関する情報を集めてレポートが出せるダッシュボードをBIツールで構築しました。

■デニムのお修理
裾上げなどの修理をするときに、毎回用紙の伝票を発行していました。それをデジタル化することで、コミュニケーションの効率化を図れました。アジャイル手法を採用し、担当部門にヒアリングして、フローを決め、伝票発行システム開発しました。会員用のスマートフォンアプリと連携し、修理が終わるとお客様へ通知するという仕組みです。そして、お客様の修理の状況は顧客情報として一元化されました。顧客がオンラインストアにログインすると自分の過去の修理内容を見ることができるようにしました。また、本社で統一的に管理でき、顧客への連絡漏れ、引き取り忘れを管理することができるようになりました。

2、アジャイル開発の注意点

■将来的拡張を見据えて
こうしたアジャイルによる開発は、まずはユーザからの要望を吸上げ、小さく始めて、後に、それぞれを連携して大きくしていくことで、その会社組織に合ったシステムを構築することができます。ですから、開発企画の時に将来的な可能性のある拡張や連携を想定して作るとより合理的に進めることができます。

■データを集める箱を
キーポイントは、データウェアハウス、あるいは特定のサーバーにデータを集めておくことで、それらのデータを結びつけることでより付加価値の高いシステムができます。例えば、オンラインストアの写真ファイル名に、商品コードを紐付けることで、商品の写真があらゆる販売レポートにサムネイルとして表示することができるようになります。

■ユーザーはわがまま
ユーザのニーズが合理的かどうか、投資対効果があるかどうか、開発期間がどのくらいかかり、難易度はどれくらいあるかを評価しなければなりません。全てを受け入れると、コストがかかり、肝心な開発が遅れてしまいます。問題や課題は、緊急度、効率(コスト効果)、販売増、ステークホルダーの要求等で評価します。その上で、開発期間(コスト)と効果(売上増加または時間短縮)を定量的に経営陣へ説明しなければなりません。そのためには、ユーザーヒアリングはもちろん、全社的な予算、方針、組織を考慮しなければならないので、ファイナンス・人事などの管理部門の協力で、ビジネスへの理解も不可欠になります。

■改善・改修
プロトタイプの段階のシステムには不具合があることが多いものです。デモ会などで多くの声をユーザーから聞いて、それらの優先順位を付け、再開発することです。また、修正箇所が多くなると思われる初期段階では、修正をすぐに報告して間違いがないよう、ユーザーコミュニケーションを密にするプランが大切になってきます。アジャイルでシステムが出来上がると、ユーザはますます意識が変わり、「これはシステム化してできないだろうか」と次々と意見が出てくるようになります。声をまとめて、再びプロジェクトを組んで開発していくことで、業務が効率化され、ますますシステムが高度化していくのです。

次:プロジェクト運営、リーダーはどの役職がいい